Deleter

元バーテンダーが、カクテル&お酒etc…写真を織り交ぜつつ紹介しています。
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『Afterimage』
手元にハインのボトルと空のグラスを並べ、
部屋の照明を落とし、代わりにキャンドルを一つ灯した。

ゆっくりと光量を増していく蝋燭。

しかし、その心もとない灯りでは部屋全体を照らすことができず、
部屋の四隅にはユラユラと暗闇が蹲っていた。

「………」

…このハインは、自分で買ったものではない。

以前、働いていた店のオーナーが、
辞める時、餞別にくれたボトルだ。

もうどれくらい昔の話になるだろう…
銀座コリドーから一本外れた雑居ビルの中に、その店はあった。
お世辞にも賑わっていたとは言えず、
ノーゲスで終わる夜も珍しくない、そんな店だった。

このハインは、あの人が好んで飲んだブランデー。
時々、グラスに移さず、
ボトルの口が触れるか触れないかのところで喇叭飲みする姿は、
豪快を通り越して、少し呆れてしまった。

そんなオレの顔を見ては、


「女もこうなったら終わりね」


と、自嘲気味に笑っていたのを思い出す。

他にもバーテンダーとして、人として目を覆いたくなることを色々としてきた人だが、
なんと言うか…不思議と人を惹きつける魅力を持った人だった。

―――が、

最後の方は……悲惨なものだ。
物もろくに食べず、
アルコールを摂っては、低く唸り背中を擦っていた。
恐らく肝臓を壊していたのだろう

酒にリアルに溺れた人を見たのは、その時が初めてだった。


「………」

いま思うと、
どうしてこんな飲みかけのボトルを餞別に寄越したんだろう。
その意味を考えると、最後の一口を飲み干すのが躊躇われる。

どうせ、また喇叭飲みしていたボトルだ。
あれからかなりの時間が経っているし、
きっと中身は変質してしまっただろう。
こんなボトル、早く処分してしまうに越したことはないのだが……

「…………ハァ」

深い溜息を1つ吐き、
ボトルに輪袈裟を掛ける。

「まさか死ぬとはなぁ……」

こんなことなら、もっと早くに会いにいけばよかった。

…もう一度、ちゃんとお礼が言いたい。
しかし、いまとなってはそれも叶わない。



なんともやり場のない後悔の念だけが、胸に残った。


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『Pathos』
今朝は久しぶりの朝帰り、
昨夜は友人と夜を明かして飲んでいた。

休日、明け方の渋谷は、
日中の喧騒からは想像ができないほど、
恐ろしく静かで、虚しい。

誰もいないスクランブル交差点に立つと、
自分だけ世界に取り残されてしまったのではないかと、
思わず錯覚してしまう。

そんな事を考えながら駅まで歩く途中、
ある異変に気が付いた。

――風が…軽い?

先ほどから頬を撫でる風が、
夏の湿気を帯びたそれではなく、
すっかり秋の冷たく乾いた風へと変わっていた。

「もう夏も終わりか…」

そう独り言ちながら、
ミュリエルに火を点ける。
甘い香りを含んだ紫煙は、
一瞬フワリと宙を舞い、
アッという間にビル風に掻き消されてしまった。


『歳を取ったな……』

最近切にそう思う。
二十歳を過ぎると、
人生は狂ったように時間の歩みを進めてしまう。
オレは残りの人生で、
なにができるんだろう…?


『よしはなんでも考えすぎなんだよ』

彼女だったらきっとそう言うに違いない。

思わず口元が緩まる。

…らしくない。
こんな暗い事をいまから考えてどうする。
まだ時間は腐るほどある。
なにがしたいかなんて、
これからゆっくり考えればいい……



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『Misfortune』
――パシィィィ……!

突然、指先に熱い鋭痛が走り、
反射的に手を引っ込めた。

…なんだ?

一瞬、何が起きたのかわからなかった。
気付くと指先から温かい液体が零れ落ちていく。

「ちょっと!大丈夫!?」
「…あぁ」

生返事を返しフリーザーを覗くと、
飲み口が半月状に欠けてしまったグラスが1つ。

…どうやら取り出そうとした時に割ってしまったらしい。

「無理矢理、抜き出そうとしたんじゃない?」
「………」

フリーザーの中は整頓されており、
グラスをどこかにぶつけるなんてありえない。

「…なんかヤダね。気持ち悪い…」
「気持ち悪い?」
「だって縁起悪いじゃん?ホラ、茶碗とか湯飲みが割れた時は良くないって…」
「お前はウチの婆ちゃんかw」
「誰が婆ちゃんよっ!」
「………」

カウンターで話す2人に背を向けながら、
グラスで切った指先をシンクで洗う。
パタパタっと広がる赤い螺旋模様を眺めながら、
無言で新しいグラスを取り出した。

「どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
「ホラみろ、コイツ気にしちゃったじゃん」
「えー!? 私のせい!?」
「違うよ、そんなんじゃない。ちょっとボーとしてただけ」

…とは言ったものの、
やっぱ気になるなぁ……


……今週は大人しくしてよう。


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『Gimlet...』
バーテンダーという職業に
就いたことがある人はわかるかもしれないが、
カウンターに立つまで、
いくつかの課題、もしくはテストがあったと思う。

オレの場合、
その1つが『ギムレット』、
まともなギムレットを作れるようになったら、
カウンターに立ってもいいとオーナーに言われた。

ギムレット自体、
ジンとコーディアル・ライムしか使わない、
至ってシンプルなレシピだ。

最初、この課題を聞いた時、
正直楽勝だと思っていた。

―――が、
それが甘い考えだという事をすぐに思い知らされた。

レシピが簡単だからこそ、奥が深い…

ジンは何を使うのか?
分量はどうする?
シェークは?
氷はどういったものを使うのか?


最初のテストでは、
グラスに注ぐ前、シェークの途中で止められてしまった。

何度目かでやっとグラスに注ぐまで見てもらえたものの、
口をつけてはもらえなかった。

そこにあったのは、
細かな氷が散ってしまったギムレット。

「こんな伸びたカクテル、飲めたもんじゃない」

それが、初めての評価だった。


あの頃は毎日が辛かった。
知識も技量もなく、
先輩が使い終えたシェーカーをシンクからこっそり抜き取り、
ボディーの中にある僅かに残った液体を、
陰で盗み飲んではメモ帳に書き込みを増やしていった。

そのメモ帳は、
いまも家のカウンターの引き出しに入っている。
その黄ばんで古びたメモ帳の一番最初に書かれているレシピが、
まさに、このギムレット。


今夜は、そのギムレットを
あるブロガーさんにプレゼントします。

Raphisさん、
今日は貴女のために一杯ご用意いたしました。

オーダーを受けてから少し時間が経ってしまいましたが、
ご注文のギムレットです。

――お口に合いますでしょうか…


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『Lovers』
「彼とC止まりなんだよねぇ…」

…だから?

一瞬、何が言いたいのか掴みかね眉を顰めてしまう。

「…そっか、もう付き合って長いのにね」
「うん…」

………? ますます意味が分からない。

「先の事とか考えてないのかなぁ……」
「そんなことないと思うけど…オトコってそういう話キライじゃん。ねぇ?」
「え? ……あぁ」

突然同意を求められ、適当に相槌を返してしまう。

「…なにソレ。ちゃんと話聞いてた?」
「えー…と、なんだっけ?」
「結婚だよ、結婚」

あぁ…そういうことか。

「ちなみに……どうしていまのままじゃダメなの?」

それとなく理由を聞いてみる。

「だって…ずっと一緒にいたいから…」
「だったら、いまのままでもいいんじゃない?」
「それは…」

そこで言葉が詰まってしまった。
暫し訪れる沈黙。
彼女はジッと、自分のグラスを見つめている。

うーん…我ながら言葉を選び損ねたか?


「…彼を繋ぎ止めていたいから。そうでしょ?」

答えたのは彼女の隣に座る女性。

「ハッキリ言うと『束縛』ね」
「そんな事…」
「格好つけたってダメよ。それじゃ、他にどんな理由があるの?」

そう言って、セーラムに火を点ける。
部屋に広がるメンソールの香りが、
余計に空気を冷たくさせた。

「きっとさ、アンタもいけないんだよ」
「……え?」
「口にだしてハッキリ言ったことないんじゃない? 『結婚したい』って」
「・・・」
「オトコってバカだから、そんぐらいストレートに言わなきゃわかんないよ」
「・・・」

彼女は俯いたまま動かなくなってしまった。
んー…と。
マズイな、こりゃ。
このままだと泣き出しかねない。


「まぁ…とりあえず怖いお姉さんの言うことは置いといて…」

そう言って差し出したのは、ダイヤモンド・スプリッツァー。
今回はいつも付けないハート型のレモン・ピールを添えて出してみた。

「ちょっと、『怖い』ってなによ」
「そのまんまの意味ですけど? 大体、結婚なんて考えた事ない癖になにがわかんの?」
「う゛………」
「たぶん…こんなところで相談するより、もっと彼と話し合うべきだと思うよ?」
「・・・」
「オレも結婚するまで色々とあったからさ」

…いまとなってはいい思い出だが、
結婚について、彼女と泣きながら喧嘩したこともあったなぁ…


「…きっと、ムダだよ……」

彼女はグラスを見つめたまま、ボソっと呟く。

「……無駄なことはしないの?」
「だって…」
「案外、自分が『必要ない』と思って避けてる事が、大切だってことあると思うよ?」

所詮、彼氏だろうが彼女だろうが突き詰めれば赤の他人。
相手のことを100%理解しようなんて傲慢な話だ。
それでも、相手の事をもっと知りたいと思うのなら、
自分から一歩、歩み寄らなければいけない。

彼女に欠けているのは、きっとそういうトコロだと思うのだが…

「……クスっ」
「?」

突然、彼女が顔を伏せたままクスリと笑った。

「なんかよしってさ、生活指導の先生みたい」

…なんだよソレ。

「あー……もう! なんかごめんね。せっかくの週末なのにシラケちゃって」

そう言って、パッと明るい笑顔を作ってみせる。

「私はもう大丈夫! だから飲もう! ね?」
「……ホントに? さっきはゴメンね。ワタシ…偉そうなこと言っちゃって…」
「ダーイジョウブだって! 彼との結果は、またみんなに報告するかサ♪」
「絶対だよ?」
「うん、絶対!」

…妙に女性陣は納得してるけど……
ホントにそれでいいのか?
なんか誤魔化された気が……

でもまぁ、うまくいくといいなぁ。
次はいい話が聞けるのを楽しみにしよう。


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